アクティビティ実践とQOLの向上 (新・福祉文化シリーズ2)

[block]高齢者や障害者、子どもたちなど、様々なニーズをもつ人を対象にした魅力的な文化活動が各地で取り組まれている。一人ひとりの生活の質を向上させる福祉文化活動を行うために、どのような組織づくり、計画立案、評価が必要かを、豊富な実践事例から探る。
著者 日本福祉文化学会編集委員会 編
発行:明石書店
ISBN 9784750331492
出版年月日 2010/03/01
本体価格 本体2,200円+税

オ-ストラリアに滞在することがあり、このような国では、福祉というものが日本とは違っているに違いないと、障害者や高齢者の活動現場を探索して見ました。すると、1981年の国際障害者年の翌年に発行されたガイドラインに従い、ユニバ-サルデザインがスキ-やキャンプなどの野外活動施設にも及んでいるのです。垂直になっているのが当然だと思っていたプ-ルの壁面が、車椅子のままでも入れるように、斜面になっています。いろんな場面に障害者が参加することを想定しているのです。これこそが福祉文化だと思いました。高齢者施設でも驚かされました。髪の毛をきれいにセットしている女性に聞くと、1週間に1度は、若い頃から通いなれた街中の美容院に、日本で言う介護保険の経費で連れて行ってもらえるというのです。旅行はもちろん、競馬でもカジノでも本人が望むなら、公的な経費で当然支援可能だといいます。
戦後、日本社会で国家の責任で福祉というものが制度化された背景には、憲法第25条の「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という文言があります。国民の生活権は国家によって保障されたのです。しかし、この「最低限度の」という言葉が曲者であり、例えば施設の入浴介助についても「1週間に2回以上、適切な方法により、入所者を入浴させ」とかいてあれば、2回しか入浴させないというのが、一般的な運営です。また、介護保険ができる以前の措置時代は言うまでもなく、介護保険でもそれ以上の人員配置ができる経費を行政が施設に保障していないというのが現状でしょう。しかし、オ-ストラリア的な発想であれば、(中略)最低限度の生活の保障より優先して、したいことをもっとわがままに主張して、自分の生きがいを見つけ、自己実現を図ってもいいはずです。「わがまま」という言葉は、現在の日本では否定的に捉えがちですが、私はそれがある種の「豊かさ」の象徴だと思うのです。
潜在化しているニ-ズを顕在化させるために、きちんと自己主張できるということが、福祉の現場でも尊重されなければならないはずです。(中略)そんなことを考えながら、福祉対象者の新しい生き方を求めるための試みを紹介し、福祉文化という思想をよりたくさんの人に理解してもらうことが、この本の出版の意図です。
たとえば、認知症高齢者キャンプ。豊かな自然の中で、マンツ-マンのケア体制を作って、高齢者がのびのびと楽しい体験をしています。(中略)この本では、福祉文化という視点から見ると意義深いけれど、日本社会の共通理解になっていないために、特別な事例に留まっているものをたくさんルポしていただきました。その普及のためには、組織づくりと評価が大きなポイントになると私は思っています。
ぜひ、福祉文化という考え方もあるのだということを、1人でもたくさんの方に理解していただければと願っています。

編集代表 石田 易司

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