「護られなかった者たちへ」を観て
~様々な人たちの人権を考える~
新潟福祉文化を考える会・社会福祉士 出羽 秀輝
2021 年 10 月 17 日、福シネマ文化俱楽部渡邊豊支配人とデッキー401 ユナイテッドシネマにて「護られなかった者たちへ」を観に行きました。
内容は東北大震災を中心に物語が進んでいくのかと思っていましたが、私の考えはいい意味で裏切られ、生活保護の人権や、被災者とその関係者、福祉事務所の職員など、その人たちの立場での人権を深く考えさせられるとてもいい映画でした。
監督が瀬々敬久さんで代表作が「64」「糸」、脚本にも携わっていて「永遠の0」「空飛ぶタイヤ」など私が観て良かったと思える作品を作っていただいているので、期待していました。
東北大震災から10年後、連続餓死殺人事件が起こることから物語は始まります。東北大震災では全ての人が被災者です。そこに住んでいる人、市⺠を守るべき警察官、消防員、市役所の職員、もちろん社会的弱者の人たち、動物たち。犠牲になった方々はもちろんのこと、生き残った方々もその人なりのトラウマを背負いながら今も懸命に生きています。
そんな中で、避難所で仲良くなった、遠山けい(倍賞美津子)、利根泰久(佐藤健)、カンちゃん(石井心咲)の3人がやがて家族のような絆を作りました。
その後3人はそれぞれの生活のため、利根は栃木に、カンちゃんは里子にと、別々の人生を生きるのですが、数年後に利根とカンちゃんが遠山けいに会いに家に行くと、衰弱した姿の遠山けいが寝ていました。
貯金も底をつき、食べるものも困るような貧困生活になっているのを知った2人は、生活保護を提案します。福祉事務所の職員は自分も被災者でありながらも、そんなそぶりは見せずに生活保護申請に対応しています。
しかも国からの圧力や住⺠からの理不尽な要求などで疲れ果て、頭が回らない中にいました。
そこで心の拠り所にしたのが、生活保護の原理原則です。
1. <基本原理>
1. ・国家責任の原理
2. ・無差別平等の原理
3. ・最低生活保障の原理
4. ・保護の補足性の原理
2. <基本原則>
1. ・申請保護の原則
2. ・基準及び程度の原則
3. ・必要即応の原則
4. ・世帯単位の原則
とにかくこれさえ遵守しておけば問題ないと思うことで、自分を守っていたのかもしれません。
そんな状況で遠山けいは申請し受理されますが、あることがきっかけで、自分で辞退します。
そこに原理原則の欠点があって、福祉事務所は生活保護者を増やしたくないため、そこをうまく使ったようなところも見受けられました。
遠山けいは生活保護を受けなかった事で餓死してしまい、利根とカンちゃんはその現実に納得ができずに福祉事務所に駆け寄り、城之内所⻑(緒方直人)と三雲(永山瑛太)と話し合いますが十分な説明がされず、怒りの感情が生まれてしまいました。
この福祉事務所の2人が被害者になるのですが、果たして犯人は?となります。この物語の題名は「護られなかった者たちへ」です。まず護られなかったのは遠山けい。生活保護を受ける条件は満たしていたのにも関わらず、辞退する方向になり、このままでは餓死するとわかっていながらも、結局「護られなかった」
次に利根泰久。遠山けいの生活保護辞退の真相を知らずに間違った行動をしてしまった。きちんと説明がなされていれば、そのような行動をしなくても済んだかもしれないし、生活保護についての知識不足(もっと世間に周知されるべきと思いますが)などの状況もあり社会は彼を「護られなかった」
次に福祉事務所の城之内と三雲。国からの圧力や自分の家族が犠牲になったことなどにより心にゆとりがなく、頼るべきものが原理原則と思ったため、対応が四角四面になってしまい、個人の状況による柔軟性を考えることができなかった。
原理原則でいえば、「必要即応の原則」により生活保護する必要があったのにも関わらず、「保護の補足性の原理」からその必要性を奪ってしまうという結果になってしまった。
原則vs原理というジレンマ、ねじれを自分たちで作り、それを修正しなかった。それ故に反感をかい、殺されてしまう結果になってしまった。
説明不足や、自分も被災者である立場を理解されない環境により、「護られなかった」他にも「護られなかった」者はいるが、そんな世の中でも、少しでも護ることのできるように頑張っている登場人物もいる。
現実としてセーフティネットから漏れてしまい、護る事のできない人というのは、なくなることはないが、少しでも減らす取り組みは絶対に必要だと思う。
この映画を観て思ったことは、きちんと傾聴して丁寧に説明し、誤解のないように本人や関係者に納得(インフォームドコンセント)してもらうこと。
その必要性や状況などの個別化を考え、生活を補足できるように支援できるように考える事。
とても難しい課題だけど、考え続けていくことが大切だと思いました。