「風の電話」を観て
〜心を共有することの大切さ〜
〜心を共有することの大切さ〜
「風の電話」を観に行ってきました。
東北大震災で家族を失い、一人になってしまった当時7歳の主人公のハル(モトーラ世理奈)が広島の伯母の家で暮らし17歳の高校生になったところから始まる。
帰宅するとその伯母が倒れていて入院した。ハルは頼りにしていた人がまたいなくなりそうになり孤独感や虚無感がフラッシュバックしてきたのだと思う。
それは災害で大切な家族を失い、孤独感を経験したハルが、再度大切な人を失うような経験をしたことで、自分はなぜ生きているのか、なぜ生き残っているのかわからないという気持ちが湧いてきたということになったのではないだろうか。こんな人生はもう嫌だとも思ったのではないだろうか。
そんな中、公平(三浦友和)に助けられたのをきっかけに自分の故郷である岩手県大槌町を目指してヒッチハイクしていく。そこには色々な出会いがあり、認知症の母と暮らしていること、自殺した妹のこと、妻と別れながらも懸命に生きている人。高齢出産を決意し、自分の人生を受け入れながらユーモラスに生きていこうとしている妊婦とその弟。震災時にお世話になった外国人を探しながら車で寝泊まりしていたり、そしてその外国人が理不尽に勾留されていることを知ったり、自分の家に戻っても家族はもう誰もいない現実を確認する人。被災した時のことや県外に避難した子ども達が非難されていることを語る老人。
そんな中、同級生を亡くした母親に偶然あって、自分だけが生き残ってしまったことを告げると母親は生きていてくれて良かったと言ってくれた。その言葉にハルはどれほど救われたかと思う。また、母親も自分の娘が生きていたらこれくらい成長していたのかとハルを見ながら思っていたのではないか。
ハルが自宅に帰ると、家はなくて家の基礎のみ残っていた。そんな自宅に入り「ただいま」と言うが返事はない。被災して9年が経ちあらためて家がなく、家族はいないという現実を実感した
時の映像はこちらも切なさが押し寄せてきた。その後帰ろうかと駅のプラットホームにいると男の子から、風の電話の話を聞くことができ、行ってみることになる。
風の電話の電話ボックスに入り、ハルが話す家族に対する想いや正直な想いや、これからも自分は生きていくという決意を9分30秒ノーカットで表現する映像に圧倒され釘付けになった。
自分が生きていれば、家族のことを思い出すことができる。思い出すことができると言うことは、自分が生きていれば家族は生きているということ。そんな想いになったのはこの旅で出会った人たちによる贈り物だろう。
つらい経験をしたのは自分だけではない、みんな色々な思いの中で一所懸命に生きている。そのことを知った旅のなかで生きていこうと希望が持てるようになったのだと思う。
みんな、なにげなく生きているように見えていても、一人一人の人生には色々な紆余曲折があって、言わないだけで心になにかを秘めながらも一所懸命に生きているのだと感じた。
そして、人には歴史があり、そのつらさは本人にしかわからない。そのつらさを話せたり、共有できたりする仲間や環境があれば、人はやさしくなれるし、世界が広がっていくような気がした。
新潟福祉文化を考える会 社会福祉士・介護福祉士・准看護師 出羽 秀輝
(2021 年 4 月 1 日)
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