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福シネマ文化倶楽部#13 福シネマ文化倶楽部「峠」番外編「小千谷談判と桜めし」*ネタバレあり

福シネマ文化倶楽部「峠」番外編「小千谷談判と桜めし」
新潟福祉文化を考える会

関矢秀幸

1 場所は小千谷寺町慈眼寺本堂西側和室慶応四年五月二日、藩主の命を受けた河井継之助は、長岡藩家老、軍事総督として、北陸道先鋒総督府山道軍軍監岩村清一郎と相対した。この時継之助四十二歳、対する岩村は二十三歳の若さであった。継之助は、長岡藩の挙動の遅れを詫び藩主牧野忠訓は異志あるものでなく、ひたすら恭順の意を表していること、「主君の心事は委細この嘆願書にしたためてあるで、閲覧のうえ総督府にお取次ぎ願いたい」旨を述べて嘆願書を岩村に差し出した。しかし、岩村はこの時すでに「長岡藩を討伐せよ」との内命を談判五日前に、総督府から指令を受けていたと聞く、継之助の嘆願が終わらぬうちに、岩村は大声で厳然を言い放った。「これまで一度も朝命を奉ぜずして、今更そのような言い訳がたつ道理はない、嘆願書のごときは、見る必要はなく、取り次ぐ必要もない。」と述べて断固たる態度で拒絶した。継之助は嘆願書全般にわたり、弁明し長岡藩に二心のないことをのべたが、岩村はなおも厳然として継之助の弁解を聞こうとしなかった。継之助は、今まさに席をたって去ろうとする岩村の裾を攫み、嘆願書の受理をと採択を懇請し続けた。が、岩村はその継之助の袖を強く打ち払って退席したのである。ここに談判は僅か三十分程で、決裂したのであった。

2 場所は下夕町高級料亭「東忠」梅の間継之助は、矢無なく、慈眼寺を後にするが、長岡へは帰らず、旅籠「野七」に向かう。旅籠に向かう道は小千谷の花街であった。下夕町の中央に立つ三階建ての高級料亭が、「東忠」であった。下夕町と呼ばれた小千谷随一の歓楽街に1730年(享保15年)頃に創業した割烹であり、小千谷縮や錦鯉を商う商人により繁栄したという。ここで遅い昼食を摂ることとなったという。席は梅の間という床の間付き四畳半の部屋であった。ここで継之助は、酒も酌んだという。心中はいかばかりであったか、察するに余りある。ここで、継之助は好物であった、桜めしを食する。

①桜めしとは
継之助の好物が桜めしで「味噌漬け飯ほどうまいものはない」と口にしている。桜めし、は、みそ漬けした大根を細かく刻んで炊き込みご飯にしたものである。峠の作者司馬遼太郎が、新潟に訪れた際、地元の人々に「味噌漬け飯を家でなさいますか」と尋ねたところ、桜めしなど誰も知らなかったという。司馬はようやくある人が「桜めしは旧士族だけのもの」と言ったことで謎が解けたと語っている。当時長岡藩の藩主であった牧野氏は、徳川家康の家臣であった、酒井忠次配下の東三河衆の一人であったと言われている。つまり桜めしは、越後長岡の郷土料理ではなく、藩主牧野氏によってもたらされた三河料理であったと言うわけである。

3 場所は下タ町旅籠「野七」
さて、東忠で遅い昼食をとった継之助は、一度旅籠へ帰るが、夕暮れにかけて再び、西軍本営に出向き面談、嘆願書の採達を懇請するが叶わなかったという。桜めしを食しながら、継之助は何を思ったであろうか?。ここ野七でも、継之助は随行した軍目付を相手に悠々と酒を酌み、詩も吟じたという。戦を決意し、一連の談判は敗れはしたが、長岡藩にとって来るべき時が到来したと継之助の腹と肝がきまったと思われる。横になるとたちまち大いびきをかいて熟睡したと言う。

まさに、豪傑豪胆な不遜この上ない人物であったと思われるゆえんである。私の推測であるが、継之助は旅籠のおかみに、桜めしを握らせて長岡に向かったのかもしれない。さくらは元来めでたいものであり、長岡藩の行く末を思い、桜めしのにぎりをもって、帰路についたことであろう。

ちなみに、桜めしは、山本五十六元帥も好んで食べたと言われている。

4 継之助が好んだ素朴な味長岡市内には、明治20年の創業以来、みそを作り続けている老舗の醸造会社がある。ここでは、桜めしをごはんにかけて食べるみそ漬けとして「桜めしの素」を販売している。幕末の長岡藩士が好んだ素朴な味。深いみそ漬けの香りとカリカリとした大根の歯ざわり今では、長岡市内の小学校給食にも使われるようになり、地元の食文化として、給食メニューにとりあげられている。

遅ればせながら、映画「峠~最後のサムライ~」をきっかけに、交渉決裂後の継之助の足跡をたどるために、継之助が歩いた慈眼寺から下タ町を歩き東忠を訪ねたい、そこで好物だった桜めしと地酒を味わいたいものである。幕末を激しく生き抜いた継之助ゆかりの地で歴史と酒に酔う最高の空間を味わいたいものである。

参考文献・資料
①小千谷談判~明治維新の夜明け前~ 広井忠男著日本海企画社
②河井継之助と酒を訪ねる旅のススメ 新潟県長岡地域振興局企画振興部

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